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1.背景
わが国では年間約4万人が自傷行為により救急搬送されており、これらの自傷行為のうち約半数が過量服薬によるものであったという報告があります。過量服薬には処方された向精神薬が用いられることが多く、以前より向精神薬の多剤併用、大量処方が問題となっています。 -
2.研究成果
今回、埼玉医科大学総合医療センター神経精神科では、当院高度救命救急センターに向精神薬の過量服薬で入院した症例を対象に、処方されていた向精神薬の量と過量服薬に用いられた向精神薬の量との関係を調査しました。研究の結果は、向精神薬の処方種類数が多くなるほど過量服薬時の危険性が増すということ、自傷行為をする度に向精神薬の処方が増えて、その向精神薬が過量服薬に用いられてしまうことが示唆されました。向精神薬による薬物療法は、様々な精神疾患に対して有効性が証明されていますが、用量や種類を増やせば増やすほど、効果があるわけではありせん。むしろ薬が増えることで、過鎮静、衝動性亢進、薬への依存などの副作用が生じ、精神症状が悪化してしまうこともあります。とくに自傷行為を繰り返していたり、慢性的に症状が持続していたりするような症例では、その背景として、その人をとりまく環境、これまで形成されてきた認知の特性、トラウマなどの要因が複雑に絡まりあっているため、薬物療法以外の治療が有効となります。この研究は、薬物療法以外の治療法にも焦点を当てる重要性を示していると言えます。 -
3.論文・学会発表
論文名:
Association between psychotropic prescriptions and the total amount of psychotropics ingested during an intentional overdose: A single-center retrospective study. I.Tanahashi, T.Shiganami, T.Iwayama, T.Wake, S.Kobayashi, H.Yoshimasu. Neuropsychopharmacology Reports 42(2):166-173,2022.学会発表:
棚橋伊織, 志賀貴文, 岩山孝幸, 和氣大成, 小林清香, 吉益晴夫:向精神薬処方と向精神薬の過量服薬錠数との関連について. 第35回日本総合病院精神医学会総会 2022.10 東京
埼玉医科大学総合医療センター 神経精神科